サカナ団の物差しである『ラ・ボエーム』の3回目の登場となります。前回のボエームから5年。団がどの様に成長して来たかを計る絶好の機会となりました。ここで再び「ボエーム」を取り上げたのは幾つかの理由があります。1つはサカナ団が97年の「クローンのジュリエット」以来、ひたすらオリジナル作品に執着してきた結果、なかなかスタンダードオペラに帰るチャンスを逸していたこと。同時に5年に渡る創作上演に疲労困ぱいしたサカナ団が、久々に団の方向性をスタンダードに戻し、新たな活動のベクトルを模索するのであれば、やはり得意演目である「ボエーム」にしたかった事など。そして『ペレアスとメリザンド』以降、原語上演にシフトチェンジしたサカナ団の今の姿を、再びこの演目で照射したかったことなど。理由は様々にあります。
前回公演の『1983』で培った神田自身による演出システムも回を増して充実し、一層脂の乗った「ボエーム」としてこの3回目の上演を提供できたと自負しています。神田自身が指揮をし、演出をする事に賛否両論ある事は自覚しています。いつもいつも、あるいはいつまでもこの形態が継続できる類いのものだとは、自ら決して思っていません。しかしながら、敢えて主張するならば、指揮者と演出家というオペラに於ける両輪がブレを見せず、全く一致したベクトルを持ちながら上演に向かった時、それ相応の確かな成果として良い舞台が実現されるのは否定できない事実では無いでしょうか。繰り返しになりますが、このシステムは、いつでも成功するとは言えない事であり、指揮者と演出家が別の人物で(普通はそうです)、見事な融合と協力を持って臨んだ時には、1足す1が3にも4にも、時には10にも100にもなる事は十分認識している事です。
この公演の場合は、大変に幸運な事に、その試みが良い形に現れた好例だったのだと思います。カーテンコールが止まずに、予定を越えて再度幕を開けたのは、実はこの公演がサカナ団史上初めてのことでした。サカナ団のお客さまはいつも正直で本当にありがたい事です。上演がそれ程の出来でない場合には、とっとと拍手が終了します。(この公演、自分自身でも出来上がりは良かったと思ってはおりましたが、お客様のこの反応は、正直言って嬉しかった!)
この公演の成功を受けて、新たなサカナ団のページが開かれた感触が切々と伝わってきたのも紛れも無い事実です。こうして青いサカナ団はお馴染みの『ラ・ボエーム』を経て、第4期とも呼べる時期に突入する事となるのです。
写真:長谷川清徳
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