前年「カルメン」で受けた「青いサカナ団はまともなオペラは作れない」という批評家の方の言葉をバネに、一般に言うところの「まともな堂々としたオペラ」を作ろう、と挑戦した作品です。それでも、どこかにサカナ団らしさを出したいと、舞台を核戦争後の世界という設定に変えています。しかしその舞台設定以外は実に「まともな堂々とした」アプローチであり、結成7年目の本作品で、初めて「グランド・オペラ」を舞台に乗せたという実感が沸いた覚えがあります。
この公演からしばらくの間、サカナ団は「ヴェリズモ(現実主義的)オペラ」を好んで取り上げる時期に入ります。これは団の方向性として、作品における演劇性を特に重視し始めた事の現れでもあります。結成から7年経っているとは言え、オペラ界の中ではまだまだ<ヒヨッ子>の分際であったサカナ団が、何とか自分自身で自信を持って臨める舞台を創ろうと思った際に、最も取り組み易かった要素が<演劇性>だった訳です。実際に、この時期に青いサカナ団では、歌手ソリストの皆さんとスコア・リーディング(楽譜を読んで分析を行う事)や演劇訓練(演劇団体で行われている様なトレーニング)を繰り返し行ったりしました。
数々の名作オペラを生み出しているプッチーニの作品の中でも、この『トスカ』は最も演劇的な作品であると思います。いくら音楽的要素が充実しても、演劇的要素の充実がなければ作品としては不完全に終わってしまう危険のある作品なのです。(マリア・カラスの舞台が今なお語り草になっている事からもお分かり頂けるでしょう。)
この時のサカナ団の上演が、その様な意識をどの程度実現させる事が出来たかはわかりませんが、ともかくサカナ団がサカナ団らしくあるその点を、この時期は<演劇性>に求めたのだという証としての公演でもあります。
写真:長谷川清徳
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