98年に初演したオリジナル作品のリメイクです。この2000年ヴァージョンでは前回公演の問題であった物語上の整合性に対してかなりの変更を行っています。さらに舞台セットなどを一切排し、出演者の肉体だけでどこまでを表現できるかに対しての実験でもありました。この様な変更は演出をアカデミック・シェークスピア・カンパニーの主催者・彩乃木崇之氏にお願いした成果でもあります。シェークスピア作品に誰よりも通じている彼の影響で、今までにない程の演劇性が舞台に加味され、前回公演でも好評を博した音楽性と拮抗して火花を散らしました。オペラ歌手、演劇俳優、バレエ舞踏手が同一バランスで存在し、それぞれの魅力を発揮し、存在をアピールしようと務めたオペラ公演は滅多にないでしょう。その意味で、本公演は新たな可能性への実験精神と、その制御の難しさの両面を抱えたものでした。
いつも他ジャンルとの融合と新創造をテーマの1つに据えているサカナ団ですが、その結果生まれる新味と作品の崩壊は紙一重であるのも事実です。この公演では作品の演劇性を過剰に追求しようとした結果、音符のついていない台詞を語る(と言ってもオペラに於けるレチタティーヴォとは異なり、伴奏にオーケストラが演奏している上で、現代の「ラップ」の要領で歌詞を俳優に語らせる)という試みを行っています。時にそれが演劇性の強化になり、時にそれがオペラ歌手と演劇俳優という2種の存在区分をより明確に露にしてしまいました。
自分自身の不勉強と経験不足を前提とした上で、サカナ団がさらなる飛躍に向けて、取り組むべき課題を数多く感じた公演でもあります。恐らく神田自身、最も愛するオリジナル作品である「クローンのジュリエット」は、今後最終形に至るまで、まだまだ長き道のりを経て変遷を遂げて行くのだろうと感じています。
写真:長谷川清徳
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