【あらすじ】
ピカリング博士は有機工学と人工知能を組み合わせた“新しい人類”を作る研究を行っている。彼の研究は画期的なものであったが、なかなか成果が出ない為、政府機関から研究の凍結を告げられる。博士は特に期待をしていたモデル、イグレタAA-617を密かに研究室から連れ出し、独自の開発を続けようと試みる。
自称「小説家」であるフィルはカフェの席で、リモート回線で妻モリーとの離婚調停の相談をしている。仕事もないフィルにピカリング博士が声をかけ、”姪、エミリア“の家庭教師を依頼する。翌日、フィルはエミリアと会い、詩や演劇についてのレッスンを始める。フィルの詩作に感銘を受けたエミリアに変化が起こり、UT-Fiaと呼ばれる”架空現実“を出現させるのであった。この画期的な芸術創造の実現にフィルは驚くが、同時に彼は研究室から盗まれたイグレタモデルに関する容疑者として政府機関から追われる身になってしまう。そして、ついにフィルは特殊傭兵部隊の襲撃を受け、逮捕されてしまうのだが…。
【作品解説】
この新作オペラ「オムニペトラ」の舞台は近未来の世界です。そこでは人口減少に歯止めがかからず、労働力の大半をロボテックやドロイドに移行させて社会を維持しています。本作の物語の下敷きになっているのは、バーナード・ショーが1913年に書いた「ピグマリオン」であり、その戯曲を元に映画化された「マイフェアレディ」の方が皆様の理解が早いかも知れません。本作はその主題をなぞりながら、SFの形態を用いて、テクノロジーとの共存という社会問題や将来的な芸術論にフォーカスを当てた野心作なのです。
未来を予知した秀逸な作品といえば、ジョージ・オーウェルの「1984」やレイ・ブラッドベリの「華氏451度」などの描くディストピアものが挙げられでしょう。この2作に見られる未来予測の論点は科学的な意味でなく思想的かつ哲学的な意味であり、芸術家のみに許されたフィールドであるとも言えます。本作「オムニペトラ」も同様に、その様な役割を担った視座に富む作品であると思っています。
劇中で小説家を自認するフィルが「教え子」であるエミリアに詩や物語を教えます。そこで行われる引用はシェイクスピアの古典を中心として行われ、2人が作り出す架空の園「エデン」への往来は、「真夏の夢の物語」や「テンペスト」で描かれる「入り/出て行く物語」の構造を取っており、その他にも多くの古典文学・古典音楽へのリクペクトと目配せに溢れています。様々な要素や表現様式を混在させ、劇的な展開を見せる本作に(確かにスタンダードなオペラ作劇とは随分と異なる点が多いでしょうが)それでも脈々と流れる“オペラならではの魅力”を感じて頂ければ幸いです。そして本作に“新しい時代のオペラ”の可能性を感じて頂ければ、嬉しい限りです。
【出演者/スタッフ】
原作/脚本/作曲/指揮/演出: 神田慶一
振付/UT-Fia: 青沼沙季
少女エミリア: 重田 栞
小説家フィル: 所谷直生
ピカリング博士: 岩田健志
情報省部長ベイティ: 塙 翔平
小説家の妻ミリー/ピラムス/賢者/UT-Fia: 栗本 萌
ロボコ/UT-Fia: 瀬口杏奈
UT-Fia: 大岸明日香/根本和歌菜/神納 愛/池上楓子/吉沢 楓
カフェのマスター: 山城直人
情報省特殊部隊スパイダー: 今氏瑛太/橋詰 龍
管弦楽: Orchestre du Poisson bleu
Concertmaster: 成原奏
Flute: 西田紀子
Oboe: 小野寺彩子
Clarinet: 櫻田はるか
Fagotto: 高橋あけみ
Horn: 月原義行
Trombone: 西岡基
Percussion: 赤坂優
Piano: 中野恵奈
Violin: 友永優子
Viola: 渡邊田鶴野
Cello: 冨永佐恵子
Contrabass: 飯田克哲
管弦楽コーディネート: 月原義行
稽古ピアノ: 菊池広輔、中野恵奈
舞台監督: 林 大介
照明: 植村 真
音響: 田中翔平
映像: 十亀雄太
衣裳: 大岸明日香/野村亜矢
広報協力: 根本和歌菜
配券制作: 瀬口杏奈
原画デザイン: 神田慶一
撮影: 水沼宏之
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