創立10年目を迎えたこの年、サカナ団の方向転換がはっきりと形になった公演でもあります。それまで団の基本理念として頑なに守り続けてきた<日本語上演>を止め、原語上演(この作品の場合にはフランス語)に切り替えたことです。それまで何が何でも<日本語上演>をすると意地を張っていたのを止めたのには様々な理由があります。1つはやはり「翻訳上演」がお客様への受けはよくても、歌手達に与える負担が多き過ぎること。(それまでレパートリーとして勉強をされて来ている言語を白紙に戻して音符を覚え直すのですから、その苦労は大変なものです。)またもう1つの要因は、原作品の良さを本当に追求するならば、やはり書かれた原語でやるべきだという、今にして思えば、当たり前の理屈です。ただ、それまでの10年間の「翻訳上演」の経験から知ることが出来た知恵、経験も確実に存在しますし、またその10年間にこだわり続けた「日本語発声」がこの時期に熱を入れていたオリジナルオペラの創作に大いに活用されていることを忘れては欲しくないと思います。
それにつけても、この公演はサカナ団史上(創立時期の数年を除けば)、最も予算の少ない公演でもありました。(まあ、いつも予算は少なく、膨大な赤字の下、四苦八苦しているのですが、この時ばかりは前回公演の創作モノであまりに大きな自己負担金を抱え込んだ事もあり)余りの予算の無さに愕然としつつ、それでも公演を実現させるために取った措置が、何とオーケストレーションのリライト!(ドビュッシーさんには本当に申し訳ない!)オーケストラの編成を室内楽版に書き換えることで、予算を削減したのですが、これも作曲家が団長を務める団の無謀かつ大胆な試み。しかし人生とは不思議なもので、このリライト版「ペレアス」が実にサカナ団らしいオリジナリティ溢れる公演に仕上がりました。この公演を絶賛してくださった方も多数いらっしゃって、何が幸いになるかわからないものです。
しかしこの公演の「意外な」成功の陰には、歌手陣の言語(フランス語)習得の弛まぬ努力とそれを見事な表現まで引き上げた彼等の才能がある事を忘れる事は出来ません。サカナ団初の原語上演であるにもかかわらず、字幕の存在を忘れる程に、この時のキャストは素晴らしい舞台を創造したのです。
写真:長谷川清徳
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